京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻

健康情報学

「小児四肢疼痛発作症の患者友の会」設立の呼びかけ(準備委員会ウェブサイト)

「小児四肢疼痛発作症(しょうにししとうつうほっさしょう)」 は、
最近、新しい疾患として確立された、乳幼児期から発作性に手足の痛みが生じる病気です。

 しかしながら、
 ・病院での一般的な採血やレントゲン検査では異常がみられない
 ・ときに成長痛と考えられたり、気のせいではないかと思われたりすることが多い
 ・子供達が通う保育所や幼稚園、学校の先生方、また、一般社会に、この病気はほとんど知られていない
 ことから、子供とご家族が疼痛(とうつう)発作で苦しむその上に、「虐待」や「ずる休み」などと間違われ、社会的にも苦労することが多くあります。


 このような状況をよくするために、小児四肢疼痛発作症について、
 (1) 患者さんとご家族の交流
 (2) 患者さんやご家族の相談支援
 (3) 本症の一般社会への普及・啓発
 (4) 診断法、治療法、ならびに、社会的処方の開発への協力・支援
 を目的・使命として、患者友の会を設立したいと考えています。
 患者友の会設立にご興味のある方は、患者友の会設立呼びかけ人の事務局にまでご連絡ください。 また、気になる症状をおもちの際は、事務局までお気軽にお問い合わせください。

呼びかけ人

小澤 塁、髙濱 沙紀、進藤 靖

事務局

京都大学医学研究科健康情報学教室内
〒606-8501 京都市左京区吉田近衛町
メール

秋田大学医学部小児科医局内 
〒010-8543 秋田市本道1-1-1  tel 018-884-6159/fax 018-836-2620
メール

注:この病気を考えるにあたって
 子供の手足の痛みにはさまざまな原因があります。打撲や捻挫(ねんざ)、骨折はもちろんのことリウマチ性疾患や腫瘍(しゅよう)、感染症など、内科に関係する病気でもおこります。
 小児四肢疼痛発作症を考えるまえに、このようなほかの病気を見逃さないようにして、きちんと診断・治療することはとても大切です。すぐにこの病気と捉えることはせず、適宜医療機関の受診をお願いいたします。


この病気の症状

1) 発症時期
 発症時期は正確には不明ですが、乳児期には頻回の夜泣き、理由もなく不機嫌になる、など非特異的な所見がみられます。実際には1-2歳ごろに言葉を話すようになってから気づかれることが多く、ほとんどの患者が3歳までに発症します。小学〜中学生時には症状が顕著となります。


2) 痛みの部位と特徴
 痛みは発作性に生じます。部位は膝、足首、肘、手首が多いですが、すねやもも、前腕や二の腕、足の付け根や肩に痛みのでる子どももいます。背中や胸、お腹に痛みがでることはないのが特徴です。痛い場所が腫れたり赤くなったりすることはありません。
 痛みのあるときは転げ回って痛がり、学校に行けない、眠れない、食事もすすまない、など日常生活に支障をきたします。一方、痛みのない時間には一切の症状がなく、完全に正常となります。
 または、ときに偏頭痛、腹部症状(下痢、腹痛、食欲不振)を認めます。


3) 痛み発作の頻度と持続時間
 痛みは不定期に発作性に生じます。月に数回〜十回などさまざまで、一回の痛み発作のなかでは、5〜60分程度の痛みのある時間と痛みが和らぐ間欠期(1-2時間)が数回繰り返されることが多いです。

4) 痛みの誘因
 多くの子供が「天気の崩れる前」「寒くなるとき」が、痛みのでるきっかけになっており、今のところこの痛み発作に低気圧や寒冷刺激が引き金になっていることは明らかなようです。ゆえに夏より冬のほうが痛みのでる頻度が高く、梅雨や台風の時にも調子を崩す患者がたくさんおられます。お天気に加え、普段もクーラーの冷たい風が苦手だったり、夏でも長袖の服を着たりひざ掛けやレッグウォーマーが欠かせない、という患者もいます。また疲労も発作の誘引となるようです。一日中運動会や学校行事などで動きっぱなしだった日の夜に痛くなる、などのお話が多く聞かれます。また、痛い時にその部位を冷やすとさらに痛みが増悪し、温めたりさすったりすると緩和する傾向があります。

5) 大人になってからは?
 青年期になると痛みの頻度や強さは軽快する傾向にあります。完全に消失する方は少ないですが、社会生活にはあまり影響を及ぼさないことが多いです。ただし、本当に長期的に問題がないかどうかはまだわかっていません。長いスパンで観察と評価を続けていくことが必要です。


病気の原因

 この病気は、遺伝子の変化により、わたしたちの体にある、「ナトリウムチャネル1.7 (Nav1.7), 1.8 (Nav1.8), 1.9(Nav1.9)」というタンパク質の機能が変化して起こります。これらのタンパク質は、手足の痛みを信号として伝える神経細胞(後根神経節細胞(こうこんしんけいせつさいぼう))にあり、痛みを感じる時に、大切な役割をはたしています。この病気の患者さんでは、これらのタンパク質の機能が変化することで、神経細胞の活動が活発になり、痛みの信号がより伝達され、痛み発作を起こしていると考えられています。
 これまでに遺伝子検査で変異(へんい)(病気の原因となる遺伝子の変化のこと)のあった患者さんでは、ほぼ全例でご両親のどちらか一方に同じ症状があることがわかっています(このような遺伝のしかたを「遺伝」といいます)。半分くらいの確率で、ご兄弟姉妹も同じ症状をお持ちです。なかには、5世代にわたって20名近くの患者さんの存在がわかった家系もあります。そのような家系では100年以上前から痛みに気づかれ、語り継がれていることになります。しかも、「病院にいってもわからないからがまんしなさいと言われて育った」などのお話もときどき聞かれます。
 ただし、患者さんの中には、このような痛みをお持ちであるのにも関わらず、遺伝子検査をしても、「Nav1.7」, [Nav1.8] 「Nav1.9」の設計図に相当するそれぞれSCN9A, SCN10A, SCN11A遺伝子の変化が見つからないひともいます。なぜ見つからないのか、ほかにもまだ発見されていない原因があるのではないかということについては、これからも研究の継続が必要と考えられています(「検査と診断」のページもご覧下さい)。


検査と診断

1) 検査
 一般的な血液検査、画像検査では異常を認めません。病院で採血やレントゲン、CT・MRI画像検査、尿の検査などをしてもらっても、何も異常がみつからないということになります。

2) 診断
 症状と遺伝子検査を組み合わせて診断します。この病気は遺伝する可能性があるので、ご家族に同じような症状の方がおられるかどうか(家族歴)が非常に参考になります。また、手足の疼痛をひき起こす病気は他にもあるので、他の病気ではないという確認も重要です。
 この病気に関わる医師・研究者が集まった研究班(*1)により診断基準が作成されています。ただし、この病気と遺伝子との関係は完全には分かっていないので、診断基準は将来的に変わる可能性があります。現在の診断基準は以下のようになっています。

主項目
 A. 乳幼児期に始まる反復性の発作性疼痛
 B. 疼痛発作は主に四肢に生じる
 C. 疼痛発作は月3回以上で3か月以上続く


副項目
 1. 家族歴を有する
 2. 寒冷、低気圧・悪天候、疲労のいずれかが疼痛発作の誘因となる
 3. 疼痛は耐え難く、日常生活上の支障や睡眠障害を伴う


確定例
 主項目3つを満たし、SCN9A、SCN10A、SCN11A 遺伝子に変異を認める場合


疑い例
 主項目3つと副項目の1. を含めた2 項目以上を満たし、疼痛の原因となる他の疾患を認めない場合

(*1)厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
「新規の小児期の疼痛疾患である小児四肢疼痛発作症の診断基準の確立と患者調査」研究班について詳しくはこちら


3) 遺伝子検査
 遺伝子検査は、患者さんの血液(通常の採血方法で数ml)をいただいて行います。「病気の原因」のページで説明した「Nav1.9」や他の2つの遺伝子「Nav1.7」や「Nav1.8」の設計図に相当するSCN11Aや他のSCN9A, SCN10A遺伝子を調べ、遺伝子の変化がみつかれば、診断確定に至ります。
 しかし一部には、このような痛みをお持ちであるのにも関わらず、遺伝子検査をしても遺伝子の変化が見つからないひともいます。なぜ見つからないのか、ほかにもまだ発見されていない原因があるのではないかということについては、これからも研究継続が必要と考えられています。
 なお、全てのヒトはなにかしら遺伝子の異常をお持ちであり、誰もが遺伝子のタイプによってそれぞれの体質を形作っています。この遺伝子検査で異常がみつかったからといってそのひとが特殊なわけではありません。



4) 遺伝子検査を希望される場合
 2022/11/2より、かずさDNA研究所で小児四肢疼痛発作症の遺伝子検査(非保険)が開始されました。
 かずさDNA研究所のHP上で情報公開となっておりますので、下記URLよりご参照ください。
 https://www.kazusa.or.jp/genetest/index.html
 https://www.kazusa.or.jp/genetest/test_non_insured.html
 ※非保険検査につきましては、現時点では保険適応外のため全額自己負担となります。
 小児四肢疼痛発作症の原因となりうる3つの遺伝子(SCN11A, SCN10A, SCN9A)について解析していただきます。
 この病気は普通の臨床検査では異常がみられませんので、疑わしい方には遺伝子検査が有用ですが、上述の遺伝子検査を行っても全てのひとの診断がつくわけではない(実際に遺伝子の病的変化が見つかる方は1/3~1/2程度です)ことをご了承の上でご利用いただければと思います。
 遺伝子検査についてご検討されたい場合は、まずかかりつけの先生にご相談ください。
 一般の方が直接かずさDNA研究所に検査依頼する体制とはなっておりませんので、どうぞご注意ください。

 一度、事務局にご相談下さることも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。



痛みへの対処方法

1) 対処方法
 この病気に特異的な治療はまだありません。以下のような対処によって痛みが和らぐ子供は多くいるようです。
 痛い時にその部位を冷やすとさらに痛みが増悪し、温めたりさすったりすると緩和する傾向があります。


保温:患部をお湯やカイロであたためる、風呂であたたまる、膝掛け・カイロ・レッグウォーマーを学校におく、夏も長ズボン、クーラーに直接あたらない、寝るときはバスタオルで足をくるむ、プールには入らない。(以上、患者さんのご意見から抜粋)
マッサージ:圧をかけて強く揉む、さするなどにより痛みが軽減します。
鎮痛剤:小児科領域で一般的な痛み止めである、アセトアミノフェン(カロナール®、アンヒバ坐剤® など)、イブプロフェン(ブルフェン® など)は、子供によっては有効です。ただし十分に奏功するとは言い難く、1時間ほどで効果が薄れてしまうこともあります。一方で1度の発作に対し1 回の内服で症状が落ち着く子どももいます。


 ほか少数ですが、メントール系などの塗り薬や湿布が効くという患者もおられます。


2) 治療薬の開発
 一方、現在治療薬の開発が進んでいます。
新型コロナウイルスの影響がありますが、医療機関とアルファナビファーマ株式会社(*2)の共同により、治験が進んでいます。
(*2)アルファナビファーマ株式会社について詳しくはこちら


事務局は京都大学医学研究科健康情報学分野が行っています。本分野の教授・中山健夫は、治験会社(アルファナビファーマ株式会社)との産学共同講座である京都大学医学研究科疼痛疾患創薬科学講座の運営委員ですが、本分野と中山健夫はアルファナビファーマ株式会社からの財政的支援・謝金等はいただいていません。


この病気の発見とその後の研究・調査

1) この病気の発見と命名
 昔から、乳幼児期に原因がわからずよく泣く子供は「疳(かん)」の強い子だと言われてきました。2012年に秋田市在住の患者さんが市内の開業医さんから秋田大学病院に紹介受診されたのをきっかけとして、秋田大学・医学研究科・小児科学講座と京都大学・医学研究科・環境衛生学分野を中心とした共同研究グループが調査を行い、「疳」の強い乳幼児の一部は、寒さや悪天候、疲労、体調不良などをきっかけとする手足の痛み発作が原因でよく泣いたことを見出しました。さらに、この痛み発作は、思春期以降に軽快し、その親や兄弟も同じ様に手足の痛みを体験していたことが分かりました。
 そこで、調査に参加していただいた患者さん、ご家族の協力のもと、京都大学・医学研究科・環境衛生学分野が遺伝子の解析およびマウスモデル(ヒトの病気を再現する特殊なマウス(ハツカネズミ))を用いた解析を行い、SCN11A遺伝子(Nav1.9)の一塩基変異が原因であることを見つけました。
 本研究により、乳幼児期に始まる手足の痛み発作の原因が特定され、この病気が疾患として新たに確立され、「小児四肢疼痛発作症」と秋田大学および京都大学の研究者により命名されました(*3)。


2) この病気の実態調査
 この病気は2016年に初めて国内の診断が確立されました。近年、関東、関西、中国地方、九州地方など、全国に患者さんがおられることがわかってきました。しかし、まだほかにも未診断の患者さんがいる可能性が高く、国内の患者さんの実態を把握するために、2019年から、この病気に関わる医師・研究者が集まって研究班(*4)を作り、全国規模での調査を進めています。その結果、SCN11Aの変異を持つ患者さんが35家系(2021年10月時点)同定されていますが、その他にSCN9A, SCN10Aの変異を持つ患者さんいることもわかってきました。
 この病気には、まだわかっていないこともたくさんあります。病気の実態を把握し、より正確な診断を推進するためにも、疑わしい方・お困りの方がおられるようでしたら、ぜひ事務局までご連絡をいただければ幸いです。


(*3)小児四肢疼痛発作症を発見した学術研究(2016年発表)について詳しくはこちら

(*4)厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
「新規の小児期の疼痛疾患である小児四肢疼痛発作症の診断基準の確立と患者調査」研究班について詳しくはこちら



体験談

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医師より

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研究者より

 現在、作成中です



パンフレット

 こちらからパンフレットのPDFがダウンロードできます



連絡・問い合わせ先

患者友の会にご興味のある方は患者友の会設立呼びかけ人の事務局にまでご連絡ください。
また、気になる症状をおもちの際は、事務局までお気軽にお問い合わせください。


呼びかけ人  小澤 塁、髙濱 沙紀、進藤 靖


事務局
京都大学医学研究科健康情報学教室内 
〒606-8501 京都市左京区吉田近衛町
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