京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻

健康情報学

移行準備状況評価アンケート(TRAQ)日本語版について

移行期医療と移行準備状況とは

 医療技術の進歩により、従来成人を迎えることが難しかった小児期発症の慢性疾患(先天性心疾患、慢性腎疾患など)を抱えながら大人になる人が増えています。それ自体は喜ばしいことですが、これらの疾患の中には根治が難しく、一生涯の治療や経過観察を必要とするものも多くあります。また、成人を迎えられるようになったことで、疾患の自己管理や治療や人生に関する自己決定を親から本人へ「移行」することが重要になってきましたが、それが難しい患者さんが多くいることがわかっています。「移行」を支援する「移行期医療」の重要性が増し、患者さんがどの程度疾患管理を行えているのか実情を把握したり、支援の効果を測ったりすることが重要視されるようになりました。Transition Readiness Assessment Questionnaire(TRAQ)(文献1,2)はWoodらにより開発された「移行」の準備状況(レディネス)の評価ツールで、海外ではさまざまな小児慢性疾患の領域で活用されています。


TRAQとは

 小児期発症の慢性疾患を持つ思春期、若年成人の患者さんが病気の自己管理をどの程度行えているかを測る質問紙です。「薬を管理する」「予約を管理する」「経過を観察する」「医療者と話す」の4領域23項目からなり、選択肢は「いいえ、どのようにするかわかりません」から「はい、必要なときはいつも行っています」までの5段階(1-5点)です。回答の合計が高得点であるほど、疾患の自己管理や自立した受診行動ができており、移行準備状況が良いと評価します。海外に複数存在する同目的の質問紙の中で最も高い妥当性、信頼性を有するとされています(文献3)。

TRAQ日本語版作成の経緯

 日本でも「移行期医療」の重要性は高まっていますが、準備状態を測る妥当性・信頼性が確認された尺度はありません。そこで、本教室では原作者であるDr.Woodの許可を得て、海外で高い評価を得ているTRAQの日本語版を作成することとしました。


TRAQ日本語版の特徴

 翻訳に際しては、日本文化に適応させるために数点の修正を加えました。例えば、問11の金銭管理に関する項目において原版では「デビットカードや小切手」が例示されていましたが、日本では馴染みがないため、「お小遣いや家計、クレジットカード」としました。また、予備調査時に項目の意味について特に質問が多かった4項目については、研究チーム内での検討に加え、原作者に意味を確認しながら脚注を追加し、理解しやすさを高める工夫を行いました。
TRAQ日本語版は、大学病院小児系診療科、患者会における調査で、妥当性・信頼性が検証されています。


TRAQ日本語版の使用にあたって

 TRAQ日本語版は基本的に利用制限や使用料はありません。ご使用の際には以下のアドレスまでご連絡いただけましたら、原本をお送りさせていただきます。また、以下(文献1-5)の書誌情報を引用いただきますようお願い申し上げます。なお、最新版では文献4に掲載したものから変更があります※。また、TRAQ日本語版の論文は出版されています。
ご使用にあたってご不明な点などがございましたら、ご連絡ください。

※ 文献4の書籍執筆中に原作者より最新版を入手したため、併せて日本語版も変更いたしました。最新版では前版より7項目減り、新たに10項目が追加となりました。内容としては、日常生活の管理に関する領域が減り、自分一人での受診や医療者とのコミュニケーション、治療上の意思決定への主体的な参加に関する項目が追加されました。


TRAQ日本語版 サンプル


【連絡先】

TRAQ日本語版開発チーム(連絡担当者:佐藤優希)
mail:JapaneseTRAQ.inquiryあっとgmail.com(あっとを@に変えてください)



【文 献】

1. Sawicki GS, Lukens-Bull K, Yin X, Demars N, Huang IC, Livingood W, et al. Measuring the transition readiness of youth with special healthcare needs: validation of the TRAQ--Transition Readiness Assessment Questionnaire. J Pediatr Psychol. 2011;36(2):160-71.
2. Wood DL, Sawicki GS, Miller MD, Smotherman C, Lukens-Bull K, Livingood WC, et al. The Transition Readiness Assessment Questionnaire (TRAQ): its factor structure, reliability, and validity. Acad Pediatr. 2014;14(4):415-22.
3. Zhang LF, Ho JS, Kennedy SE. A systematic review of the psychometric properties of transition readiness assessment tools in adolescents with chronic disease. BMC Pediatr. 2014;14:4.
4. 佐藤優希、中山健夫.TRAQ. 小児期発症慢性疾患患者のための移行支援ガイド. 石﨑優子編.東京: じほう; 2018;137-141.
5. Sato Y, Ochiai R, Ishizaki Y, Nishida T, Miura K, Taki A, Tani Y, Naito M,Takahashi Y, Yaguchi-Saito A, Hattori M, Nakayama T. Validation of the Japanese Transition Readiness Assessment Questionnaire (TRAQ).
Pediatr Int. 2019 Dec 9. doi: 10.1111/ped.14086.

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