Dairy Records of Severity of Problems, DRSP日本語版、短縮版DRSP、PMS-8
月経前症候群(Premenstrual Syndrome, PMS)とは、月経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいいます。
月経を有する女性の7〜9割が何らかのPMS症状を持っており、1~3割に治療が必要なほどの中等度のPMSがあります。精神症状が重篤で生活への支障が著しいものは月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder, PMDD)といい、1〜5%といわれます(1)。
PMSやPMDDは血液検査や画像検査での異常がありません。したがって症状と月経周期との関連を観察することしか、診断の手立てがありません。毎日自分の症状と月経周期を記録してその記録を医師が確認することが、正確な診断には必要です。DRSPは診断のための症状記録ツールとして開発されました(2)。英国産婦人科学会はじめ、国際的に推奨されています。
一方、DRSPは臨床試験でのPMSの重症度尺度としても、最も広く使用されています。21項目のPMS症状と、それによる日常生活への支障を問う3項目の、計24項目から成り、それぞれに1(全く無い)〜6(非常に強い)までの6段階を記載します。
DRSPの日本語版は京都大学大学院医学研究科 婦人科学・産科学分野と社会健康医学系専攻健康情報学の共同研究により、原著者Endicott氏の許可を得て、Patient- Reported Outcome Consortiumの提唱した尺度翻訳ガイド(2018)に準拠して開発されました。8名のPMDD患者によるパイロットテスト、220名の一般女性を対象にしたアンケートと、304名の一般女性を対象にした日々症状記録により、PMS尺度としての信頼性と妥当性が確認されています(3, 4)。
DRSP日本語版を開発する中で、古典的テスト理論により、DRSP日本語版よりも因子的妥当性の高い、短縮版DRSPを開発しました。症状8項目から成ります。こちらも、PMSの尺度としての信頼性と妥当性が確認されています(3)。また、月経前にこの8項目の症状を評価してもらい、総得点が13点以上のとき、感度90%特異度79%でPMSによる日常生活支障 (DRSPに含まれる日常生活支障項目3項目のいずれかが2点以上)を判別できます(5)。
短縮版DRSPを作成後に複数の研究者から、この8項目を記憶想起型の単回質問紙として使用できないか、というお問い合わせをいただきました。そこで作成したのがPMS-8です。 短縮版DRSPと同じ8項目を用いていますが、普段の月経前の症状について想起してもらう形で回答してもらうため、黄体期に質問する必要がありません。こちらも他の記憶想起型のPMS尺度との高い相関が確認されており、許容できる程度の信頼性と妥当性が確認されています(6)。
他の記憶想起型のPMS尺度と同様に、PMS-8は日々記録型のPMS尺度とあまり高い相関を示していません。PMSの正確な重症度を示しているわけではなさそうですが、個々が持つPMSへの負担感をみるものとしては、簡便に使用できる尺度となっています。 DRSP日本語版、短縮版DRSP、PMS-8ともに、利用制限や使用料はありません。DRSP日本語版と短縮版DRSPに関しましては下記文献(3)の書誌情報を引用頂きますようお願いいたします。PMS-8に関しましては下記文献(6)の書誌情報を引用してください。また、ご使用の際不明点がございましたら下記の連絡先にお願いいたします。
【連絡先】
mail:info*kyoto-scope.com(*を@に変えてください) |
【文 献】
1. Halbreich U, Borenstein J, Pearlstein T, Kahn LS. The prevalence, impairment, impact, and burden of premenstrual dysphoric disorder (PMS/PMDD). Psychoneuroendocrinology. 2003;28 Suppl 3:1-23.
2. Endicott J, Nee J, Harrison W. Daily Record of Severity of Problems (DRSP): reliability and validity. Arch Womens Ment Health. 2006;9(1):41-9.
3. Ikeda Y, Egawa M, Okamoto K, Mandai M, Takahashi Y, Nakayama T. The reliability and validity of the Japanese version of the Daily Record of Severity of Problems (J-DRSP) and Development of a Short-Form version (J-DRSP (SF)) to assess symptoms of premenstrual syndrome among Japanese women. Biopsychosoc Med. 2021;15(1):6.
4. Ikeda Y, Egawa M, Hiyoshi K, Ueno T, Ueda K, Becker CB, Takahashi Y, Nakayama T, Mandai M. Development of a Japanese Version of the Daily Record of Severity of Problems for Diagnosing Premenstrual Syndrome. Womens Health Rep (New Rochelle). 2020;1(1):11-6.
5. 池田裕美枝, 江川美保, 他. 短縮版DRSP(8項目)は PMSにより生活に影響がある人のスクリーニングに利用できる(会議録). 日本女性医学学会雑誌. 2021;29:98.
6. 池田裕美枝, 江川美保. 短縮版Daily Records of Severity of Problems(DRSP)8項目の記憶型尺度“Premenstrual Syndrome Short Scale 8 items(PMS-8)”への応用と,妥当性および信頼性の検討. 心身医学. 2024;64:152-60.