医療者はときに、『こうするべきだ』と自分が倫理的に正しいと思う行動をとれないことがあります。例えば、緩和ケアを思うように導入できなかったり、医療資源が不足していて適切だと思うような診療/ケアができなかったり、ということがあります。思うように行動できない原因は、現場の環境にあることもありますし、医療者自身の中にあることもあります。このようなとき、医療者は無力感やフラストレーション、不安、怒り、悲しみといった負の感情を持ちます。これを倫理的苦悩といいます。
特に、集中治療の現場では、医学的な判断と患者さんへの共感的な行動が相反するように思えることがあります。実際に、ICUの医療従事者からは以下のような声が聞かれています。
・患者さんに十分なケアができていない、医師の患者さんへの対応が遅い
・研修医が診療する際、患者さんに最善の医療が提供できていないと感じる
・患者さんは慢性疾患が進行した病態なのに、ICUに運び込まれるまで、主治医から終末期や緊急時対応の話がなされていない
・良好な予後が期待できないのに、積極的な集中治療を医師や家族が続けている
・患者さんへの適切な診療と、人員が足りるかなど医療資源を天秤にかけなければいけない
近年、日本国外では集中治療従事者の抱える倫理的苦悩について調査がされており、バーンアウト(燃え尽き症候群)や離職との関連が示唆されています。
倫理的苦悩は背景にある文化や医療システムによっても性質が異なる可能性がありますが、日本では実態がわかっていません。
私たちは、集中治療室で働く仲間たちが少しでも気持ちよく働けるようにしていきたいと思っています。医療者の労働環境が改善することで、診療/ケアの質が向上することが期待できます。そこで、私たちは日本の集中治療室で働く人たちが抱える倫理的苦悩の実態を調べることにしました。
この研究は、日本の集中治療従事者(医師・看護師)の抱える倫理的苦悩の詳細を明らかにし、諸外国との実態の比較を可能にし、倫理的苦悩に対する介入策や予防策を講じるための基礎情報を得ることを目的としています。
デザイン | 自記式質問票調査・半構造化面接の併用、統合による説明順次的混合研究法 |
セッティング・対象者 | ICUで診療に従事する医師・看護師 |
対象者のサンプリング | 質問票:全国医師—全数調査またはランダムサンプリング、協力施設医師・看護師—協力施設の全数調査 面接:グランデッドセオリーに基づく理論的飽和に達するまで行う。10~15人程度の見込み。 |
質問票調査内容 | 属性, 診療パターン(勤務体制),測定尺度 [Moral Distress Scale-R, Maslach Burnout Inventory, Brief COPE](いずれも日本語翻訳版を使用する) |
研究実施期間 | 2017年10月2日~2018年10月2日。質問票の送付は2018年1月末~2月初旬を予定。 |
遵守する倫理指針 | 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(2017年5月30日改訂) |
この研究は一般財団法人 藤原記念財団 平成29年度特別奨励金 により実施します。
利益相反については、「京都大学利益相反ポリシー」「京都大学利益相反マネジメント規程」に従い、「京都大学臨床研究利益相反審査委員会」において適切に審査・管理しています。
また、京都大学大学院医学研究科・医学部および医学部附属病院 医の倫理委員会と、協力研究機関の倫理委員会で審査を受け、承認されています。
【この研究に関するお問い合わせ】
研究代表者:藤井 智子 | (京都大学大学院医学研究科 医学専攻 集中治療医) |
mail:tofujii-tky*umin.net(*を@に変えてください) |
岩手県立中央病院集中治療科 | 梨木 洋 |
京都大学大学院医学研究科 | 中山 健夫 |
同上 | 藤井 智子 |
同上 | 宮崎 貴久子 |
埼玉県立小児医療センター集中治療科 | 新津 健裕 |
自治医科大学大学院医学研究科 | 方山 真朱 |
聖路加国際大学大学院看護学研究科 | 宇都宮 明美 |
横浜市立みなと赤十字病院集中治療科 | 武居 哲洋 |